【医療と法務|第7回】
医療的意思決定を支える家族信託
~自分の“意志”と“資産”を託すしくみ~
がんの治療が進行し、本人の判断能力が低下したときに、誰がどう支えられるのか――。
今回は、**医療的意思決定を支える「家族信託」**という選択肢について解説します。
医療とお金の関係は切り離せない
終末期医療では、次のような場面で「お金の意思決定」が必要になります:
- 在宅療養や施設入所の費用支払い
- 医療・介護サービスの契約や変更
- 預貯金からの支払い手続き
- 医療機器の導入や住宅改修費用の決定
このような「生活と医療に関わるお金の管理」は、法的な裏付けがないと家族でも代行できません。
家族信託とは?
家族信託とは、本人が元気なうちに、信頼する家族に資産管理の権限を託す契約です。
- 本人=「委託者」
- 管理をする人=「受託者」
- 利益を受ける人=「受益者」
たとえば、親が自分の預貯金や不動産を、子に管理してもらう契約を結ぶことで、将来的な判断能力の低下に備えることができます。
医療的意思決定と家族信託の連携
前回紹介した医療同意書(事前指示書)と家族信託を組み合わせることで、以下のような支援体制が可能になります:
✅ 本人の「医療的希望」を実現する準備
→ 医療同意書で意思を残し、信託で生活費・医療費を管理
✅ 医療費の支払いに迷いがなくなる
→ 子どもが受託者になり、信託財産からスムーズに支出
✅ 「もしものとき」に備えた資産管理の安心感
→ 判断力の低下後も、混乱なく医療・生活をサポート
遺言との違いと併用のすすめ
家族信託は「生きている間の支援」が目的であり、遺言とは異なる機能を持っています。
両者を併用することで、生前~死後まで切れ目のない支援設計が可能になります。
比較項目 | 家族信託 | 遺言 |
---|---|---|
発効時期 | 契約時点から | 死後 |
主な目的 | 財産管理・支援 | 財産の承継 |
対象範囲 | 生前の資産運用・支払い等 | 相続分の指定 |
医療・生活・相続を「連続した支援」として捉える
がんと向き合うには、単発の手続きではなく、長期的・連携的な支援体制が重要です。
行政書士は、医師や家族と連携しながら、「その人らしい暮らしと最期」を法的に支える設計図を描くお手伝いをします。
次回は、「がん患者の単身高齢者支援(※想定事例)」を紹介します。
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