📝遺言作成にあたり|第5回

医療・介護との関係を考える


💡想定事例

長野県飯山市にお住まいのEさん(80歳・女性)。
1年前に軽い脳梗塞を発症し、現在はリハビリをしながら自宅で生活しています。
幸い、回復も良好で日常生活には支障がないものの、
最近は物忘れが増え、家族から「遺言を作っておいた方がいいのでは」と勧められました。

Eさんは、夫に先立たれ、二人の子どもがいます。
「元気なうちにきちんとしておきたいけれど、判断能力の問題が心配」――
そう感じて、行政書士に相談することにしました。


⚖️解説:判断能力があるうちに作成することが大前提

遺言書は「本人の意思表示」がすべての基礎です。
したがって、**判断能力(意思能力)**が十分にある時期に作成することが不可欠です。

1️⃣ 判断能力の目安

  • 日常の会話で内容を理解し、自分の意思を説明できる
  • 財産の内容や家族関係を把握している
  • 誰に何を遺すか、理由を説明できる

一時的な混乱(入院直後、薬の影響、発熱など)がある場合は避け、
体調が安定している時期を選ぶのが理想です。


2️⃣ 医療や介護との関係

近年は、入院・介護施設入所中に遺言を作成するケースも増えています。
その際に注意すべきポイントは次のとおりです。

  • 📋 医師の診断書を添付
    公正証書遺言の場合、判断能力に疑義が出ないように、
    医師の「意思能力に問題なし」との診断書を求められることがあります。
  • 🏥 作成場所の配慮
    公証人が病院や施設まで出張して遺言を作成することも可能です。
    ただし、本人の署名や意思確認ができる状態であることが前提です。
  • 💬 家族との情報共有
    医療・介護の現場スタッフが同席することで、
    作成過程の透明性を保ち、後日のトラブルを防ぐことができます。

3️⃣ 判断能力が低下した場合の選択肢

もし、遺言作成が難しいほど判断能力が低下した場合は、
任意後見契約や家族信託といった別の法的手段を検討します。

これらは「財産管理を任せる」制度であり、
遺言のように“死後の分配”はできませんが、
生前の生活・介護費の管理に役立ちます。


🧭 行政書士からのひとこと

遺言は、「体が動かなくなる前」ではなく、
**“判断がしっかりしているうちに作る”**ことが何より大切です。

医療や介護の現場と連携しながら作成を進めることで、
内容の信頼性が高まり、ご家族も安心できます。

体調や病状が安定している時期こそ、
遺言作成のベストタイミングといえるでしょう。


📚次回予告

第6回|遺言作成前に話し合うべきこと
――家族に伝えるか、それとも静かに準備するか――

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