【想定事例】
Eさん(78歳)は、認知症の進行を不安に思い、公正証書遺言を作成しました。
内容は、長年世話になった姪Fさんに全財産を遺すというもので、実子はいません。
その2年後、Eさんは認知症が進行し、判断能力が著しく低下。親族の申し立てにより家庭裁判所で法定後見人が選任されました。後見人はEさんの遠縁の親族で、Fさんとはあまり関わりのない人物でした。
その後、FさんがEさんの口座を生活費の立て替え等のために使用していたところ、後見人から「本人の財産を不当に使っている」として注意を受け、さらに亡くなった後には、後見人側が「Eさんは認知症の影響で遺言内容に疑義がある」と主張。相続の手続きが一時停止され、争いになってしまいました。
【問題点】
- 遺言作成時点では問題なかった判断能力が、その後の後見制度の介入によって否定されかねない状況に
- 後見人と遺言の受遺者との関係が悪い場合、執行に支障が生じる
- 財産管理の実務と遺言の「意思」がかみ合わず、信頼関係が崩れてしまった
【教訓と提案】
▼こうしたケースでは:
- 遺言作成時の意思能力の確認を明確に残す(医師の診断書など)
- 将来、判断能力が低下する可能性がある場合は、
→ 任意後見契約を同時に作成して、信頼できる人を後見人に備えておく
→ 遺言執行者を指定し、後見人とは別に財産処理を担ってもらう体制を整える
特に、家族以外に遺す場合は、周囲の理解や制度の整合性を確保することが不可欠です。
【結び】
公正証書遺言は、判断能力があるうちにこそ作成できる重要な手段です。
しかし、その後の生活の中で制度(成年後見)と矛盾が生じると、せっかくの遺言が活かされない可能性もあります。
認知症や高齢期を見据えた遺言作成では、遺言だけでなく後見制度との連携を意識することが肝心です。
「想いを託す仕組み」は、制度を複合的に活用することで、初めて本当の力を発揮します。

