【想定事例】
Iさん(83歳)は、長年暮らした自宅とその敷地、周囲の畑(市街化区域内)を所有しており、全体で評価額は約8,000万円。
妻はすでに他界し、子どもは長男Jさん、次男Kさんの2人。Iさんはかねてより「Jには自宅を継いでもらい、Kには金融資産で平等に」という考えから、公正証書遺言を作成しました。
遺言内容は次の通り:
- Jさんに不動産(自宅と周辺地)を相続させる
- Kさんに預貯金など5,000万円を相続させる
遺言は法的には問題ありませんでしたが、Iさんが生前に相続税についての配慮をしていなかったため、死後に大きな問題が起こります。
不動産の評価額は6,000万円超。Jさんは「小規模宅地等の特例」を受けようとしましたが、Jさんが他県に持ち家を持っており、同居していなかったため適用外に。
結果としてJさんは2,000万円以上の相続税を支払うことになり、不動産を売却せざるを得なくなりました。
一方Kさんは、金融資産を相続したことで比較的スムーズに手続きを終えましたが、「兄だけ負担が重すぎる」と不満を述べ、兄弟関係も悪化。
Iさんが望んだ「平等で円満な相続」は、結果として果たされませんでした。
【問題点】
- 不動産の税評価や控除特例に対する認識不足
- 形式的な“平等”が、税の負担によって実質的不公平を生んだ
- 税務を考慮していなかったことで、不動産の継承が叶わなくなった
【教訓と提案】
▼こうしたケースでは:
- 公正証書遺言を作成する際、税務の観点からのアドバイスを受けることが必須です
- 特に不動産がある場合は、
→ 小規模宅地等の特例の適用可否を確認する
→ 相続人の居住状況や将来の生活設計を考慮する - 代償分割の設計や、生命保険の活用なども視野に入れた設計が重要です
また、「遺言信託」などを利用し、専門家が関与する仕組みを作っておくことも有効です。
【結び】
遺言は「法的な意思表示」であると同時に、「現実にどう遺るか」も含めて考える必要があります。
税の影響を考慮せずに作成した遺言は、せっかくの想いを形にできないこともあるのです。
公正証書遺言を作成する際は、相続税の視点を無視せず、専門家と連携しながら準備することが大切です。

