― 金額で割り切れない“価値観の相違”が火種に
【想定事例】
Bさん(77歳)は、配偶者を亡くし、子どもが2人います。
長女Cさんは独身で実家近くに住み、買い物や病院の付き添いなど、日常のサポートをよくしてくれています。
一方、長男Dさんは首都圏で家庭を持ち、年に数回帰省する程度でした。
Bさんは、元気なうちに遺言書を作成することにしました。
「現金は流動性があるし、将来的にも使いやすいだろう。
家はCが地元にいるから使えばいい。バランスも取れているはず」
そう考えて、公正証書遺言を作成しました。
■ モデル遺言書(一部抜粋)
第〇条 遺言者の保有する預貯金は、すべて長男Dに相続させる。
第〇条 遺言者名義の土地建物(長野市〇〇所在)は、すべて長女Cに相続させる。
付言事項:それぞれの生活状況を考慮し、このように分けました。仲良く過ごしてくれることを願っています。
■ 遺産の“価値”が兄妹のあいだで違って見える
遺言の内容が伝えられた直後、Dさんは不満を漏らしました。
「え?家って、売れなければ現金化できないし、しかも固定資産税もかかるんだろ?
実家の家と土地の方が、評価額では俺がもらった現金よりずっと高いじゃないか」
たしかに、不動産の評価額は約1,500万円、預貯金は900万円でした。
しかもCさんはその家に住み続けるつもりで、Dさんは遺産の不公平を感じざるを得ませんでした。
■ 不動産と現金の「価値」は同じではない
- 不動産は、評価額が高くても流動性が低い(すぐ売れない)
- 維持費(固定資産税・修繕費)がかかる
- 将来的に共有になるとトラブルのもと
- 地域によっては買い手がつかず、売却も困難
こうした事情があるため、「評価額のバランスが取れている=不満が出ない」とは限りません。
■ 解決策①:換価分割の検討
「遺産を売却して現金化し、そのうえで分ける」という選択肢もあります。
ただし、Cさんのように「住み続けたい」という希望がある場合は、慎重に検討が必要です。
■ 解決策②:特別受益・持戻し免除とのバランスを考える
もしCさんが長年介護をしてきた場合、「その労に報いたい」という意味で不動産を相続させることは正当性があります。
この場合、付言事項で経緯を詳しく説明し、理解を促すことが大切です。
■ 対応の工夫:現金の一部を不動産を相続する者に
たとえば以下のように記載することも考えられます。
「遺言者名義の土地建物は長女Cに相続させる。ただし、長女Cは長男Dに対して、現金300万円を分与すること。」
こうすることで、“公平感”を具体的な金銭で調整することができます。
■ 結びに ― “形の違う遺産”は、争いのきっかけになる
遺産の中でも、「不動産」と「現金」の扱いは難しいポイントです。
“評価額”でバランスをとったつもりでも、使い道・維持費・心理的負担の違いが感情のズレを生みます。
「どう分けるか」だけでなく、「どう感じられるか」まで考えておくことが、
遺言に込めた想いを伝えるためには欠かせません。

