― “公平”と“納得”のズレが生む相続トラブル
【想定事例】
Fさん(83歳)は、3人の子ども(長男Gさん・長女Hさん・次男Iさん)に恵まれました。
長年、地元で自営業を営みながら、子どもたちを大学まで進学させた後は、静かな老後を過ごしていました。
生前、Fさんは家族にこう語っていました。
「私は平等が一番だと思う。法定相続分どおりに3人に分けるつもりだよ。
公正証書遺言にもそう書いておいたから、心配いらない」
■ モデル遺言書(一部抜粋)
第〇条 遺言者の財産は、すべての財産を次の通り相続させる。
長男G:財産の3分の1
長女H:財産の3分の1
次男I:財産の3分の1
なお、遺言者の葬儀・納骨その他一切の事務は、長男Gに依頼する。
■ 「平等=公平」とは限らない現実
Fさんの死後、遺言通りの手続きを行う中で、次男Iさんは不満を漏らしました。
「兄貴は会社の立ち上げ資金を父から援助されてる。
私は借金して大学に行ったのに、同じ“3分の1”って不公平だと思うよ…」
長女Hさんも、母の介護でFさんの家に通い詰めた過去を振り返りながら言いました。
「3人とも同じって、何を見て平等だって言ってるんだろうね」
遺言書は法的に有効であり、実務的には何の問題もありません。
しかし、“納得感”のない相続分配は、心のわだかまりと人間関係の悪化を招くことがあります。
■ 公平感は、事実と感情の積み重ね
「法定相続分」は、法律上の基準であって、必ずしも個々の人生で生じた“差”や“努力”を反映するものではありません。
- 生前贈与や学費援助などの経済的支援
- 介護や看病などの精神的・身体的負担
- 距離・関係性・日常的なつながり
こうした要素を無視した“形式的平等”は、かえって対立の原因になります。
■ 対応の工夫①:付言事項で経緯を明記する
たとえ法定相続分どおりであっても、付言事項で以下のように書くことで受け止め方が変わります。
【付言事項】
長男には会社立ち上げ時に支援しましたが、以後家計に迷惑をかけず努力してくれました。
長女は母の介護を献身的に担ってくれました。
次男も遠方からたびたび連絡をくれて感謝しています。
それぞれに感謝し、私は公平だと信じてこの内容にしました。どうか互いを認め合い、仲良く暮らしてくれることを願います。
■ 対応の工夫②:特別受益・寄与分を考慮した配分も
もし、Gさんのように生前の援助が明確な場合は、それを相続分で調整することもできます。
例:
・長男G:全体の25%
・長女H:全体の35%
・次男I:全体の40%
形式的な平等より、家族内で“納得”される公平を追求することが、
結果的に遺言を尊重してもらえる近道になります。
■ 結びに ― 遺言は、“気持ちの整理”まで設計する
「法定相続分どおりだから安心」とは限らない。
むしろその一言が、無視されたと感じるきっかけになることもあります。
遺言には、数字の根拠とともに、**言葉での“理解の橋渡し”**が必要です。
形式的な平等を選ぶときこそ、その理由と想いをしっかり伝えることが、
“もめない相続”への鍵となります。

