― 認知症リスクと遺言の“タイミング”を考える
【想定事例】
Jさん(74歳)は、夫を早くに亡くし、ひとりで持ち家に住んでいます。
子どもはなく、近所に住む甥のKさんが、日常の買い物や通院の付き添いをしてくれていました。
JさんはKさんに感謝し、「自分の財産はKに残そう」と考えていましたが、
「まだ元気だし、急ぐことはない」と遺言書の作成を後回しにしていました。
■ 状況が急変 ― 転倒と入院、そして…
ある日、自宅で転倒したJさんは、入院先で軽度の認知症の診断を受けます。
退院後は在宅での介護が必要になり、Kさんがさらに関わる時間を増やしていきました。
ところが、Jさんが「遺言を書きたい」と話した際、
担当の医師からは「判断能力は不安定で、今の状態では難しいかもしれない」との見解が…。
■ 公正証書遺言には「判断能力」が求められる
公正証書遺言を作成するには、本人が遺言内容を理解し、自分の意思で判断できることが大前提です。
遺言の作成にあたって公証人は、医師の診断書を求めることもあり、
状態によっては作成そのものができない・無効となるリスクがあります。
■ 対応の工夫①:早めの遺言作成
判断能力のあるうちに、まずは公正証書遺言を作成しておくことが重要です。
特に、配偶者や子がいない人の場合、遺言がなければ、法定相続人(兄弟姉妹やその子)に相続されてしまうため、
生前に関わってくれた人に想いを託すには、遺言が不可欠です。
■ 対応の工夫②:任意後見契約・家族信託との組み合わせ
遺言だけでは対応できない将来の財産管理には、以下の制度も検討できます。
- 任意後見契約:判断能力が低下したとき、信頼できる人に代理してもらう制度
- 家族信託:財産の管理・処分を第三者(家族など)に託す仕組み(生前から有効)
たとえば、
「判断能力があるうちに、公正証書遺言と任意後見契約を同時に作成する」
という方法を取ることで、将来にわたって備える体制を整えることができます。
■ 結びに ― 「まだ早い」ではなく「今が最適」
遺言書は、元気なうちだからこそ、きちんと作れるものです。
「まだ先の話」と思っていても、体調や判断能力は突然変わる可能性があります。
想いを託す相手がいるなら、
“元気なうちに伝えておく”ことが、自分にとっても、相手にとっても安心につながります。

