【医療と法務|前立腺がん 第5回】

【想定事例】「関係が変われば、遺言も変える」

~抗がん剤治療中の“心境の変化”と遺言の修正~


須坂市在住のHさん(70代男性)は、進行性の前立腺がんで抗がん剤治療を続けていました。
数年前に一度、公正証書遺言を作成していたHさんですが、ある出来事をきっかけに、内容の見直しを決意しました。

それは、疎遠だった長男が看病のために実家に戻ってきたこと。
かつては親子間に深い溝があり、遺言にも名前を入れていなかった長男が、治療を支える存在になっていたのです。


❖ 遺言の見直しを考えたきっかけ

当初の遺言内容は、妻にすべての財産を相続させ、子どもたちには触れない構成でした。
ところが、看護や病院付き添いを献身的にこなす長男に対し、Hさんの中に「想定していなかった感情」が芽生え始めます。

「何も残さずに終えるのは、申し訳ない気がしてきた」
「元気なうちに、気持ちの整理をつけておきたい」


❖ 内容変更の具体例

Hさんは、すでに作成した公正証書遺言の「撤回」を行い、新たな内容で遺言を作成し直しました。

【新しい遺言の構成】

  • 妻には自宅不動産と生活用預貯金を相続させる
  • 長男には、Hさん名義の駐車場用地を相続させる
     └ 「父が仕事場を支えてくれた」と語る長男のために
  • 次男には、金銭での相続分を調整

また、家族全員に向けたメッセージも追記され、
Hさんの思いがしっかりと伝わる構成となりました。


❖ 家族の反応とその後

遺言の修正について、Hさんは子どもたちにも説明しました。
特に、以前は不満を抱いていた次男も、「父の意思を尊重する」と納得してくれました。

「治療中にここまで考えをまとめてくれて、本当にありがたかった」
「“父らしい”最期の配慮だったと思います」

Hさんは、その後しばらく在宅療養を続け、穏やかな時間の中で人生を全うされました。


❖ 遺言は“一度きり”ではない

  • 一度作成した遺言も、状況や関係の変化に応じて見直すことができます
  • 特に、がん治療の中で家族の在り方が変わることはよくあること
  • 「自分の想い」を正しく届けるために、定期的な点検と修正が大切です

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