想定ケース|抗がん剤治療中に遺言書を作成した60代女性の例
【背景】
長野県内在住の60代女性。
2年前に乳がんの手術を受け、現在は再発予防のために抗がん剤治療を継続中。
副作用による倦怠感や食欲不振が強く、通院時には家族の付き添いが必要な状況でした。
最近になって、同年代の友人が急逝したことをきっかけに、
「自分も元気なうちに遺言を残しておきたい」と考えるようになり、行政書士へ相談。
【本人の希望】
- 自宅は夫へ
- 預貯金の半分を長女へ、残りを次女へ
- 形見の指輪を孫に渡したい
本人の希望は明確で、家族も理解を示していました。
ただ、治療中で体調が不安定なため、手続きの進め方には慎重な配慮が求められました。
【落とし穴】
抗がん剤治療の副作用によって「思考がぼんやりする」「集中できない」という日があり、
治療後に面談を行った際、本人が「ちょっと頭が回らない」と話すことがありました。
公証人との打ち合わせでは、意思確認がスムーズに進んだ日もありましたが、
別の日には「預金の残高」や「通帳の保管場所」を思い出せず混乱する場面も。
そのため、最終的に遺言作成は「体調が安定した日」を選び、
午前中に短時間で行うよう調整されました。
【医療面の確認】
主治医に確認したところ、
「抗がん剤による一時的な倦怠や注意力低下はあるが、判断能力そのものは保たれている」との診断。
この診断書を添付し、公正証書遺言を作成。
作成時には、公証人・立会人・家族が同席し、
本人がはっきりと自分の意向を述べている様子を記録に残しました。
【考えられる法的リスク】
がん治療中の方の遺言作成では、
- 薬の副作用による意識混濁
- 強い倦怠・睡眠不足
- 精神的な不安定さ
などが重なることで、後に「遺言能力がなかった」と争われるケースがあります。
たとえ一時的であっても、判断が鈍っていた時間帯に作成された遺言は、
その有効性を疑われる可能性があります。
【医療と法務の接点】
抗がん剤には中枢神経への影響を及ぼすものもあり、
「治療直後に遺言作成」はリスクが高いといえます。
行政書士や公証人が押さえるべきポイントは以下のとおりです:
- 面談や作成日を「投与スケジュール」に合わせて設定する
- 主治医の診断書で「意思能力の確認」を行う
- 体調の良い日・時間帯(朝など)を選び、長時間の手続きを避ける
- 同席者・立会人の記録を残す
これらの配慮により、後の争いを防ぐ「証拠力の高い遺言書」となります。
【行政書士ができる支援】
- 医療状況を踏まえた作成スケジュールの調整
- 公証人・医師・家族間の情報共有支援
- 記録書類(面談メモや診断書控え)の保存
法律的な形式の整備だけでなく、
「その日の体調を考慮したタイミング選び」こそが、遺言作成の質を左右する といえます。
【まとめ】
💠 抗がん剤治療中の遺言作成では、
「書けるかどうか」よりも「書くタイミング」が重要です。
医療チームと連携しながら、
最も安定した体調の日に行うことで、
法的にも医学的にも確実な遺言を残すことができます。
🔍 次回予告
次の記事では、
「想定ケース|認知症の診断を受けた後の遺言作成」
をテーマに、判断能力の確認と作成可否の境界線について解説します。
