想定ケース|入院中に遺言書を作成した70代男性の例
【背景】
長野市内の病院に入院していた70代男性。
慢性心不全の持病があり、数か月前から入退院を繰り返していました。
病状は落ち着いているものの、医師からは「いつ急変してもおかしくない」と説明を受けており、
本人は「家族に迷惑をかけないように、今のうちに遺言を残したい」と希望しました。
【本人の希望】
- 自宅と土地は妻に相続させたい
- 預貯金の一部を介護を手伝ってくれた長女に渡したい
- 遺言執行者に長男を指定したい
本人は意思が明確で、入院先の病室で行政書士・公証人が面談を行うことに。
家族も同席し、和やかな雰囲気で進められました。
【落とし穴】
入院中に遺言を作成する場合、
一見「問題なく意思確認できた」と思えても、
後から法的に有効性を問われることが少なくありません。
この男性の場合も、作成後に思わぬ指摘を受けました。
遺言当日、本人は朝に強心剤の点滴を受けており、
一時的に血圧と心拍数が上昇していました。
その影響で、会話中に息切れや混乱がみられ、
質問への返答が遅れる場面もあったのです。
家族や公証人は当時の状況を記録していましたが、
後日、親族の一部から「薬の影響で正常な判断ができなかったのでは」との指摘が入りました。
【医療面の確認】
主治医に経過を確認したところ、
「点滴による一時的な循環動態の変化はあったが、当日は意識清明。意思疎通は可能だった」
との診断書が出され、結果的に遺言の有効性は問題ないと判断されました。
しかしこのように、入院中は薬剤・体調の変動が大きく、遺言能力の確認が難しい ことが多いのが実情です。
【法的リスク】
入院中の遺言には、以下のような法的な落とし穴があります:
- 体調や投薬による判断力の変動
→ 麻酔・鎮静薬・強心薬などが影響する場合がある。 - 作成時の証拠が残りにくい
→ 面談記録や映像記録がないと、後に検証が困難。 - 「危急時遺言」との混同
→ 病状が重い場合、通常の公正証書遺言が難しいこともある。
「危急時遺言」は、死期が迫った状態で緊急的に行う方式ですが、
証人3名の立会・20日以内の家庭裁判所確認など、厳格な条件があります。
【医療と法務の接点】
入院中の遺言作成は、医療環境の中で行う法的行為 です。
したがって、次のような配慮が求められます:
- 公証人・行政書士が病院の許可を得て面談
- 医師から「意思能力あり」の診断書を取得
- 作成時の動画・音声記録を残す
- 家族が立会し、作成時の体調をメモに残す
特に、点滴・鎮静・痛み止め などの使用状況は、
後に争われる際の重要な判断材料となります。
【行政書士ができる支援】
- 医療チームとの連携による作成スケジュール調整
- 公証人への事前情報共有(薬剤・面談環境など)
- 作成当日の記録書類(チェックリスト・体調メモ)の作成補助
- 遺言能力の証明を強化するための文書整備
法的形式を整えること以上に、
「医療現場での実施記録を残す」ことが、後の有効性を支える基盤になります。
【まとめ】
🏥 入院中の遺言は、本人の体調・投薬・意識レベルを慎重に確認することが欠かせません。
たとえ短時間でも、「安定している状態で作成された」ことを医療記録で裏づけておくことで、
後の無効主張を防ぐことができます。
🔍 次回予告
次の記事では、
「想定ケース|自筆証書遺言を体調不良時に書いた結果」
をテーマに、体調の影響と筆跡・日付・証拠の問題を中心に解説します。
