📄 遺言作成時の落とし穴

想定ケース|複数の遺言書が存在していた80代男性の例


【背景】

長野県在住の80代男性。
数年前に軽度の認知機能低下を指摘されていましたが、日常生活は自立。

・3年前に自筆証書遺言を作成
・1年前に内容を変更したくなり、再度自筆で書き直し
・半年前に体調悪化を機に、家族の勧めで公正証書遺言を作成

結果として、3通の遺言書が存在 する状態となりました。


【それぞれの内容】

① 3年前の自筆証書遺言
→ 自宅は長男へ、預金は長女へ

② 1年前の自筆証書遺言
→ 自宅は長男、預金は長女と次女で折半

③ 半年前の公正証書遺言
→ 自宅は妻へ、預金は子ども3人で均等

内容が徐々に変わっていました。


【落とし穴】

男性が亡くなった後、家族の間で次の疑問が生じました。

  • どの遺言が有効なのか?
  • 認知機能が低下していた時期に書かれたものは無効ではないか?
  • 公正証書遺言があるなら自筆は無効になるのか?

結論から言えば、
原則として「日付が最も新しい有効な遺言」が優先 されます。

しかし問題は、
「その時点で遺言能力があったかどうか」です。


【医療面の確認】

診療録を確認すると、

・3年前:判断能力問題なし
・1年前:軽度認知症疑い、物忘れ増加
・半年前:体調不良あり、しかし意思疎通は明瞭

つまり、
2通目(1年前)の遺言については、
作成時の判断能力に疑義が生じる可能性 がありました。

もし③の公正証書遺言が存在しなければ、
②を巡って争いが起きた可能性は高いと考えられます。


【法的ポイント】

■ 遺言の優先順位
後の遺言が前の遺言を撤回します(民法1023条)。

■ ただし前提
「後の遺言が有効であること」が必要。

つまり、
最新の遺言が判断能力欠如で無効となれば、
その前の遺言が復活する可能性があります。

ここが大きな落とし穴です。


【医療と法務の交差点】

認知症や高齢者医療の現場では、
判断能力は「徐々に低下する」ケースもあれば、
体調によって「日内変動」することもあります。

特に問題になるのは:

・せん妄があった時期
・感染症や脱水による一時的混乱
・強い鎮静薬の使用期間

複数の遺言が存在すると、
医療記録がそのまま法的証拠になります。


【行政書士としての実務上の示唆】

✔ 遺言を作り直す場合は、必ず前の遺言を確認
✔ 変更理由を明確にしておく
✔ 医師の診断書を取得する
✔ 作成経緯を記録に残す

特に公正証書遺言であれば、
公証人による意思確認の記録が残るため、
紛争予防効果は高まります。


【まとめ】

🧩 遺言は「何通あってもよい」ですが、
問題は「どれが有効か」です。

複数存在する場合、
判断能力・作成時の医療状況・日付の整合性が
重要な争点になります。

医療状況が変動する高齢期こそ、
変更のたびに法的有効性を意識することが不可欠 です。

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