― 指定相続人が死亡していた場合、どうなる?
Mさん(87歳)は、30代で妻を亡くして以来、一人娘のNさんと二人三脚で暮らしてきました。
しかし、Nさんは病気のため、Mさんより先に亡くなってしまいます。
深い悲しみの中、Mさんは「自分の財産は、Nの夫である義理の息子Oさんに託したい」と考え、公正証書遺言を作成しました。
遺言には、こう記されていました:
「すべての財産を、義理の息子Oに相続させる」
しかし、Mさんの死の数カ月前、Oさんも急逝してしまいます。
遺言の内容は有効か? そして、誰が財産を受け取るのか?
残された親族には大きな混乱が生じました。
■ 指定された受遺者が死亡していた場合
民法では、遺言で指定された人(受遺者)が遺言者の死亡前に亡くなっている場合、その部分は無効になると定められています(民法994条)。
つまり今回のケースでは、Mさんの死亡時点でOさんがすでに亡くなっていたため、
「Oさんに相続させる」という部分は効力を失ってしまうことになります。
その結果、Mさんの財産は法定相続人(兄弟や甥姪)に分配される形となりました。
■ 予防できた“想定外”
このような事態を防ぐためには、遺言に「代わりの受け取り人」を指定しておくことが有効です。
1.「予備的遺言」でリスク回避
「義理の息子Oに相続させる。万が一Oが先に死亡している場合には、Pに相続させる」
といったように、第一の受遺者が不在だった場合の“予備”を設けておくと、遺言の効力が途切れず、意志を継いでもらうことが可能です。
2.“包括遺贈”より“特定遺贈”を
特に相続人以外に財産を渡す場合、「すべて」ではなく「一部(例:預貯金の〇円)」を指定することで、代替の指定がしやすくなる場合があります。
3.定期的な見直しも大切
10年前の公正証書遺言が、そのまま使えないケースは少なくありません。
家族構成・健康状態・関係性の変化を踏まえ、5年に1回程度は内容を見直すのが望ましいといえます。
■ 結びに ―「その人に託したい」想いを確実にするために
遺言は、その人の人生の“最終メッセージ”とも言えるものです。
けれども、指定した相手が先に亡くなってしまえば、その想いは実現しない可能性があります。
「誰に渡したいか」だけでなく、「万一の場合にどうしたいか」まで考えること。
それが、意志を確実に伝える遺言の第一歩です。
公正証書遺言という形式に加え、内容の設計こそがトラブルを防ぐ鍵になります。

