― 再婚家庭で考える“想い”と“相続”のすれ違い
【想定事例】
Nさん(72歳)は10年前に再婚し、妻Oさん(68歳)と暮らしています。
前妻との間には成人した子どもが2人(Pさん・Qさん)おり、再婚後も交流は続いていました。
Oさんには連れ子Rさん(当時高校生)がいて、NさんはRさんをわが子のように可愛がってきましたが、法的な養子縁組はしていません。
■ 「全員に少しずつ」で安心のつもりが…
Nさんは、公正証書遺言でこう定めました。
■ モデル遺言書(一部抜粋)
第〇条 自宅不動産はOに相続させる。
第〇条 預貯金のうち200万円ずつを、P、Q、Rに遺贈する。
第〇条 その他の財産はOに相続させる。
付言事項:家族として長年支えてくれた妻Oと、3人の子に感謝の気持ちを込めました。皆が争わずに過ごしてくれることを願っています。
一見、バランスよく配慮された内容に見えますが、
後日、Nさんの死後に残された人たちの間でトラブルが生じました。
■ 見えなかった「血縁」の壁
Oさんは「RはNの子も同然だった」と主張しましたが、
Pさん・Qさんは冷ややかに言いました。
「僕らは父の実子だけど、Rさんは戸籍上“他人”ですよね?
家を譲るなら、私たちにも公平に考えるべきだったと思います」
また、Rさんも悔しさをにじませました。
「私だって家族だったのに、“他人”としてしか見られなかったのか…」
■ 「想い」だけでは乗り越えられない相続の現実
民法上、法定相続人は、配偶者と血縁のある子・親・兄弟姉妹に限定されています。
連れ子は養子縁組をしていなければ法定相続人になりません。
そのため、
- 遺言がなければRさんは何も受け取れない
- 遺言があっても、「公平感」に納得しない相続人が異議を唱える可能性がある
- 自宅をOさんに相続させることで、P・Qが遺留分を主張する余地もある
といったリスクが生じます。
■ 対応の工夫①:遺留分への配慮
たとえば、自宅不動産の評価が高額な場合、P・Qの遺留分(※)を侵害することもあります。
この場合は、遺留分に配慮した分配設計が望まれます。
※遺留分…法定相続人が最低限保障される相続割合
■ 対応の工夫②:養子縁組または信託の活用
Rさんを実子と同様に扱いたい場合、
- 生前に養子縁組をすることで法定相続人とする
- 家族信託を活用し、自宅の使用や生活費の支援を担保する
- 遺言書で生活の継続が可能になるような遺贈内容を明記する(例:自宅の使用権を残す等)
といった方法で、“想い”を法的にも支える形を整えることができます。
■ 結びに ― 家族のかたちが複雑な時代だからこそ
再婚や事実婚、ステップファミリーなど、
「家族=血縁」では語れない関係が増えています。
遺言書は、“想い”を形にする大切な手段ですが、法律上のルールとズレてしまうと、かえって争いの火種にもなり得ます。
だからこそ、「今の家族に合った設計」を、早めに、冷静に考えることが大切です。

