― 見つけられない遺言と、残された人の混乱
【想定事例】
Tさん(81歳)は数年前、公正証書遺言を作成しました。
長男Uさんには生前に多くの援助をしてきたことから、遺産の大半を次男Vさんに譲る内容です。
Tさんは、「遺言を作ったから安心だ」と誰にも内容を話さず、
自宅の書斎に「公正証書遺言 正本」を保管したまま、ほどなくして亡くなりました。
■ 長男が先に動き、財産は“法定相続”で処理された
葬儀後、長男Uさんが主導して相続手続きを進めました。
Vさんは遠方に住んでおり、連絡も遅れがちだったため、気づいた時には既に預金の名義変更や不動産の分割が終わっていました。
その後、自宅の遺品整理中に「公正証書遺言 正本」が見つかり、
Vさんは驚愕します。
「これが本当に父の意思だったなら、どうして誰も気づいてくれなかったんだ…」
■ 遺言が「発見されない」ことは、意外と多い
公正証書遺言は、公証役場に原本が保管されているため、内容が失われることはありません。
しかし、「そもそも作られたこと自体が知られていない」「誰も調べようとしなかった」場合、実現されずに終わってしまう可能性があります。
■ モデル遺言書(一部抜粋)
第〇条 本遺言の原本は、〇〇公証役場にて作成・保管されている。
第〇条 遺言の存在について、遺言執行者Wに事前に通知してある。
付言事項:この遺言は、私の想いを明確にしたものであり、遺言執行者に託してあります。家族の皆さんには、どうか穏やかに受け止めてほしいと思います。
■ 対応の工夫①:遺言執行者を定め、連絡する
- 信頼できる人物(または専門職)を遺言執行者として明記
- 遺言の存在・保管場所を事前に伝える
- できれば、家族にも「遺言を作った」という事実だけは知らせておく
執行者は、遺言に沿って確実に手続きを実行する権限を持ちます。
そのため、遺言を“発動”させる役割として非常に重要です。
■ 対応の工夫②:遺言書保管場所を明示しておく
- 公正証書遺言の場合、「〇年〇月〇日、〇〇公証役場で作成」と明記
- 自筆証書遺言なら、法務局の遺言書保管制度を利用するのも有効
- 家族や関係者が迷わないように、メモや付言事項で所在を伝える
■ 結びに ― 遺言は“使われてこそ”意味がある
せっかく想いを込めて作った遺言も、
誰にも気づかれなければ「なかったこと」として扱われてしまうことがあります。
遺言は、書いて終わりではなく、「確実に届ける」準備までが重要です。
あなたの想いを正しく遺すために、
「誰に」「どう伝えるか」を考えることも、遺言の一部です。

