― 古い遺言と新しい遺言が残されていた場合の混乱
【想定事例】
Nさん(80歳)は、10年前に公正証書遺言を作成していました。
当時は次のような内容でした。
第1条 すべての財産を長男Oに相続させる。
第2条 遺言執行者として行政書士Pを指定する。
付言事項:家業を継いだOが負担を背負うことを思い、この内容としました。
ところが、Nさんが亡くなった後、自宅の書類棚から新しい自筆証書遺言が発見されました。
そこには、以下のように記されていました。
すべての財産を、次男Qに相続させる。
令和5年9月15日
N(署名・押印あり)
長男Oは、「正式な公正証書遺言がある。これは無効では?」と主張。
一方、次男Qは「父が最後に自分の意思で書いたものが優先される」と反論。
家族間で争いが深まり、家庭裁判所に持ち込まれる事態となりました。
■ 原則:“後に作成された遺言”が有効
民法では、複数の遺言書がある場合、日付の新しい遺言が優先されるとされています。
ただし、問題はそこにとどまりません。
- 新しい遺言が**形式不備(署名漏れ・押印なし・日付不明など)**で無効になることも
- 内容が不明瞭な場合、“一部無効”とされる可能性
- 旧遺言と新遺言の関係が明示されていないと、解釈に混乱が生じる
このように、「ただ新しいだけ」では、かえって争いを招くこともあるのです。
■ 対応の工夫①:古い遺言は「撤回」または「一貫性をもって修正」
遺言を新たに書くときは、次のような文言を明記すると確実です。
- 「本遺言に反する以前の遺言はすべて撤回する」
- 「平成〇年作成の遺言を一部修正するものである」
これにより、解釈の余地をなくし、無用な争いを防げます。
■ 対応の工夫②:可能な限り「公正証書遺言」で再作成
- 新たな遺言を作る場合は、古い遺言を無効化する意味でも公正証書での再作成が望ましい
- 家庭裁判所の検認が不要で、後から発見されても信頼性が高い
- 公証人によるチェックで、形式不備のリスクも回避できる
■ 結びに ― 遺言は「最後の一通」がすべてを決める
遺言は、時間の経過とともに書き換えることも珍しくありません。
ですが、それが複数存在し、関係が曖昧なままだと、残された人を悩ませることになります。
だからこそ、「新たな意思」を明確に、そして形式的にも確実に残すことが大切です。
あなたの想いを、最後に正しく届けるために――
遺言の見直しや撤回にも、“慎重さ”を忘れずに。

